東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)205号 判決
一 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)の事実は当事者間に争いがなく、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、真正な公文書と推定すべき乙第一号証、同第七号証、同第九号証によれば、原告主張の拒絶査定がなされた日は、昭和五八年七月二六日、本件拒絶理由通知の日付けは昭和五九年三月七日付けであつて、本件審決の理由の要点は、被告主張の「本件審決の理由の要点」記載のとおりであることが認められる。
二 原告は、本願発明の要旨は、請求の原因2記載のとおりである旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。
かえつて、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二ないし第四号証によれば、本願発明は、昭和五八年一一月一八日付け手続補正書によつて補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の「1 太陽熱集熱器を採光窓、壁、塀と兼用とさせることにより省資源を計ると同時に創エネルギーを行う太陽熱集熱器の方法。2 特許請求の範囲1の方法において採光窓と兼用させて採光と同時に創エネルギーを計る採光窓兼用太陽熱集熱器の装置。3 特許請求の範囲1の壁、塀との兼用の方法の装置において集熱板を波形として集熱面積を多くして効率を上げるよう設計された波形集熱板を持つた太陽熱集熱器の装置。4 太陽熱集熱器に光半導体を取り付けて太陽の持つている光と熱を同時に活用して集熱と発電を行う創エネルギーの方法。5 太陽熱集熱器の水の中にある集熱板に光半導体を取り付けて太陽光により酸・水素を発生させると同時に集熱を行う方法。6 偏向光フイルムにより太陽光を集束して集熱板に当てて集熱効率を上げる方法。7 蓄熱体を空気層又は水又は蓄熱オイルとしたことを特長とする太陽熱集熱器の方法。8 特許請求の範囲7の方法による蓄熱体を持つた太陽熱集熱器の装置。」をそれぞれ発明の要旨とすることが認められるから、本願第一発明の要旨を右特許請求の範囲1記載のとおりとした本件審決の認定に誤りはない。
三1 そこで、原告主張の本件審決の取消事由について、判断する。
まず、原告は、特許出願に対しては、特許請求の範囲の個々の請求項について審査、審判し、特許の有無について認定すべきであるのに、本願第一発明についてのみ論じて「審判の請求は、成り立たない」と審決したのは違法である旨主張する。
しかしながら、本件出願は、前記二認定の事実から明らかなように、特許法第三八条ただし書の規定(昭和六二年法律第二七号による改正前の規定)に基づき二以上の発明について一通の願書で特許出願をしたものであつて、複数の発明が一体となつた一個の出願と解すべきものであり、出願手続に関して、一個の出願についてこれを各別に取扱うべき特許法上の規定が存しない以上、これに対する特許法上の処分は一個のものでなければならないから、審査及び拒絶査定に対する不服の審判手続においても、併合出願された二以上の発明は一体として取扱うべきであり、その一発明について拒絶理由があるときは、同法第四九条の規定により、併合出願全部について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない、というべきである。
したがつて、本件出願についての審査、審判の手続において本願第一発明についての判断のみを示したことに手続上の瑕疵は存せず、本件審決が、本願第一発明が特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないことを理由に、本件出願全部を拒絶すべきものとしたことに誤りはない。
2 原告は、(1)前記拒絶査定謄本の備考欄には「実開昭五四―四七一四五号公報」と記載されているが、右公報は拒絶理由通知書に記載されていない、(2) 本件審決は、審査手続において示された引用例がすべて拒絶理由に該当しないことを認め窮余の一策として第一引用例、第二引用例を合わせ、しかも本願第一発明についてのみ審決したものであつて違法である旨主張する。
しかしながら、前記一及び二認定事実に前掲乙第七号証を総合すると、本件については、原告から拒絶査定に対する不服の審判請求と同時に昭和五八年一一月一八日付け手続補正書が提出されたので、特許法第一六一条の二の規定により、いわゆる前置審査に付され、特許庁審査官において審査の結果、審判の請求に係る査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したので、同法第一六一条の三第二項、第五〇条の規定により、「この出願の発明は第一引用例、第二引用例及び実開昭五四―第一〇〇四五五号公報に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をできたものであるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない」との本件拒絶理由の通知がなされたものであり、本件審決は右審査の結果に基づいて前記審決の理由の要点記載のとおりの判断をしたものと認められ、本件審査、審判の手続には何らの手続上の瑕疵も存しないことが明らかである。
原告の前記主張(1)は、本件拒絶理由通知前になされた前記審判の請求に係る査定の理由に関するもので右認定の手続の効力を左右するものではなく、前記主張(2)は、事実に基づかないものであつて、いずれも採用することができない。
3 また、原告は、(1)本件拒絶理由通知書及び本件審決に記載された引用例は、いずれも公開明細書原本であつて特許法第二九条第二項にいう同条第一項第三号に規定する刊行物に該当しない、(2)特許公報は同法第三〇条第一項の規定からみて(1)の刊行物に該当しない旨主張する。
しかしながら、第一引用例は実用新案出願公開公報、第二引用例は特許出願公開公報であつて明細書原本でないことは前述のとおりであり、特許法第二九条第二項の規定する「前項各号に掲げる発明」における同条第一項第三号の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された「刊行物」は、広く公開を目的として複製された文書等を意味し、出願公開公報がこれに該当することは、同条が公知の発明と同一又はこの発明から容易に発明できるものについては、特許権という独占的権利を付与しこれを保護する必要がないとする趣旨から設けられていることにかんがみ、疑う余地のないことであつて、原告の右主張はいずれも採用することができない。
4 さらに、原告は、本願発明は、第一引用例及び第二引用例記載のものを合わせたものと全く異質のものであるから、本願発明は特許法第二九条第二項の規定に該当しないものである旨主張する。
ところで、本願第一発明の特許請求の範囲に記載された「太陽熱集熱器を採光窓、壁、塀と兼用とさせることにより」との構成要件は、太陽熱集熱器を「採光窓、壁、塀」のいずれか一つと兼用させる、すなわち三者択一の趣旨か、三者全部を兼用とさせる趣旨か必ずしも明確でないが、前掲乙第二号証によれば、本願明細書及び図面(別紙図面(一)参照)に記載された唯一の実施例が太陽熱集熱器と採光窓を兼用とさせたものであることが認められるから、三者択一に解するのが相当である(このことは、原告主張の前記「本願発明の要旨」からみて、原告自身認めるところである。)。また、右特許請求の範囲中の「省資源を計ると同時に創エネルギーを行う」は、目的ないし作用を表す記載であるが、前記本願明細書及び図面の記載からみて、「太陽光を熱エネルギー又は電気エネルギーに変換して活用する」という技術的手段の趣旨に解するのが相当である。
一方、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、真正な公文書と推定すべき乙第五号証によれば、第一引用例には、建造物の透光部(本願発明の「採光窓」に相当する。)前方に通水パイプを備えた太陽熱集熱器を設け、該太陽熱集熱器と該透光部との間に巻き上げ自在の反射板を設けるようにした太陽熱集熱装置(別紙図面(二)参照)が記載されていることが認められる。そこで、本願第一発明と第一引用例記載のものとを対比すると、両者は、太陽熱集熱器を採光窓の近傍に設置することにより省資源を計ると同時に創エネルギーを行う太陽熱集熱器の方法である点で構成が一致し、本願第一発明が太陽熱集熱器と採光窓を兼用とさせるようにしたものであるのに対し、第一引用例記載のものは採光窓の前方に太陽熱集熱器を配置し、採光窓と兼用させていない点において構成が相違するというべきである。
そこで、本願第一発明と第一引用例記載のものとの前記相違点について検討すると、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、真正な公文書と推定すべき乙第六号証によれば、第二引用例には、光偏向体を有する光偏向ガラス板と、該光偏向ガラス板に対向して配置された平ガラス板と、該光偏向ガラス板と該平ガラス板とを所定の間隔に保持させるための支持枠体と、該光偏向ガラス板と該平ガラス板間に形成された空間内に配置され、かつ前記光偏向ガラスによつて集束された光を受光するための(受光部5を含む)光導体を具備した太陽光収集用サツシ窓(別紙図面(三)参照)が記載されていることが認められ、右認定事実によれば、第二引用例記載のものは太陽光を利用するために光偏向ガラス板及び光導体を具備した装置を採光窓と兼用とさせるものであり、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは太陽光を採光窓の近傍で利用するという点で同一の技術分野に属するものである。
したがつて、第一引用例記載のものにおいて、採光窓の前方に太陽熱集熱器を別個に配置する構成に代えて、第二引用例記載の太陽光を利用するための装置を採光窓と兼用させる技術的手段を適用して本願第一発明のように構成することは当業者が容易に想到することができる程度のことであり、本願第一発明の奏する作用効果(前掲乙第二号証によれば、本願明細書には、「本発明はコストの低減と設置範囲の拡大と効率の向上に資する」(第五頁第一行ないし第三行)と記載されていることが認められる。)も第一引用例及び第二引用例記載のものがそれぞれ有する作用効果の単なる総和にとどまり、これをもつて格別顕著なものとすることはできない。
原告が第一引用例及び第二引用例記載のものを合わせても本願発明と全く異質のものである根拠として主張するところは、本願第一発明の要旨に基づかないものであつて採用することができない。
四 以上のとおりであつて、本願第一発明は第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の認定、判断は正当であつて、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないから、これと併合出願されたその余の発明について判断することなく、本願は拒絶すべきものとした審決に原告主張の違法はない。
五 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。